◆目の前の一冊の本は、ひとつの謎としてそこに横たわっている。著者はどんな謎を解きたくてその本を書いたのか。どんな問いが立てられ、どんな答えが用意されているのか。本を読むとは、その問いが何かをさぐり、謎解きのプロセスをたどり、著者によって出された答えをつかむことである。読解とはスリリングな謎解きゲームなのだ。私の書評はそういうマインドフルネスなものでありたいと考えている。
◆書評ブログに、最初にとりあげる一冊が〈狐〉という書評家の文章から始まるのは、偶然ではない。なぜなら、私が書評という仕事をやってみたいと思ったのは、もう30年近くも前に、〈狐〉の書評(「日刊ゲンダイ」の水曜日に掲載)を読んだことに始まるからだ。彼の書評によって私は、書評という仕事が本の紹介にとどまらぬ、「それ自体一個の自律的な開かれた作品」であることに確信をもったのである。